漫画村の元運営者実刑判決におすすめの書籍”暴走するネット広告:1兆8000億円市場の落とし穴”
漫画村の元運営者に2021年6月2日実刑判決がくだりました。判決内容は懲役3年、罰金1千万円、追徴金約6200万円です。
漫画村は、2016年1月~2018年4月までネット公開されていたwebサイトで、大量の漫画データを閲覧可能な状態となっていた大規模な海賊版サイトです。
その漫画村の実態をNHK取材陣が追いかけたレポートを書籍化した『暴走するネット広告:1兆8000億円市場の落とし穴』は、当時ネットの世界に足を踏み入れたばかりの私にとって、衝撃的な内容だったのを覚えています。
読んだことのない方のために書籍の概要を解説しておきます。
書籍”暴走するネット広告”の概要
インスタグラムのフェイク広告
冒頭、インスタグラムのフェイク広告の話で始まる。
インスタグラムで、あるダイエットサプリの広告にマツコデラックスさんが出ていた。しかし、これは実際にはマツコさんの許可を得ていないフェイク広告だった。
ここから取材班のネット広告への追求が始まる。
結論からいうと、広告主ですら管理できない、アフィリエイト広告の闇が背景にある、ということだった。
アフィリエイターは、自分が掲載した広告リンクを踏んでから購入さえしてもらえれば報酬が発生する。報酬を求めて悪質なフェイク広告を掲載するアフィリエイターを全て取り締まることは不可能である。
アフィリエイターだけではない。こうしたフェイク広告を制作することで、簡単に稼げる、とのフェイク動画制作業者もいる。
さらに取材を進めると、新聞社のサイトにもフェイク広告があることもわかった。
アドネットワークという仕組み
運用型広告を支えるアドネットワークという仕組みにより、配信事業者は広告主から依頼された広告を多くのメディアに一括して配信・掲載することができる。
このアドネットワークは運営する事業者の枠を超えて互いにつながり、全体で巨大なネットワークを形成している。
これにより、広告主や配信事業者が掲載先のウェブサイトの質を管理しきれないという事態が発生してしまう。
すなわち、多くのネット広告は運用型という仕組みで配信されており、いつ、どのサイトに表示されるかは誰にもわからず、完璧にコントロールするのは難しいということだ。
漫画村の事例
漫画コンテンツを著作者に無断で掲載している海賊版サイトが数多くある。その中でもひときわ規模が大きいのが漫画村だった。
漫画村サイトを運用している正体を突き止めようとする取材班の奮闘が始まる。
取材は日本だけなく遠く海外のサーバー等にまで及んだ。
漫画村を提供しているサーバー(それもアメリカ アリゾナ州)に削除依頼をかけてみた。
しかし、ホスティングプロバイダ(ウクライナ)のコンテンツであり、それを配信代行しているだけなのでコントロールできない、と難航。
方向を変えて広告費の流れを追うと、広告主は漫画村に掲載されていることを知らないことが多く、広告代理店(配信者)にもたどり着けない。
そこで、広告枠を配信している専用サーバーの配信事業者をあたった。回答はえられなかったが、サイトから広告枠が消えた。
しかし、実は裏広告枠があった。display:none; で非表示にしている枠があったのだ。
display: none;とは、HTMLには記載している情報を、Webサイト上では非表示にするのに使うCSSです。Webサイトの見映えを整えるのによく使うおなじみのCSSです。
表の広告枠は、ギャンブルやアダルト系が多かったが、裏広告枠には、誰でも知っているような大手企業のものが掲載されていた。
これはアドフラウドという、広告費をかすめとる不正行為である。
この裏広告枠への配信代理業者にあたったが明確な回答はなく、やがて裏広告枠もサイトから消えた。
そして、漫画村サイトそのものも消えることとなった。
他にもあるアドフラウドの手法
さらに取材班はさまざまなアドフラウド事例にあたる。
- ボットを使って、サイトへのアクセスを不正に増やし、広告費をかすめとる手法。
- 同じバナーも中に、複数の広告を同時に重ねて配信する手法。
- 不適切なサイトに広告が配信されて、ブランドに傷がつく、ブランドセイフティ。
アダルトサイトにアクセスすると、トップページにアクセスしたとたん関係ないサイトが立ち上がり、多数の広告を表示するまとめサイト。自治体の広告も掲載されていた。これは税金のかすめ取りである。
曽於市のふるさと納税の広告がアダルトサイトに掲載された事例。広告代行の契約者は九州電通だった。このような大手広告代理店でも未然に防止できなかった。
ほかにも、ヤフーが広告代行しているものが、アダルトサイトに掲載された事例もある。
広告掲載を依頼する側も知っておきたい・・・
以上の事例は、3年以上前のことかもしれないけれども、今もネット広告に関する問題は消えていません。
例えば昨年2020年の9月には、気象庁がホームページで民間の運用型広告を掲載したところ、掲載基準に反するものが掲載されたため、広告配信を始めて約20時間で配信停止にいたったことが話題となりました。
参考:読売新聞社説 ”気象庁の広告 信頼を損なう表示では困る”
このように、違法広告や、サイトにそぐわない広告が表示されるリスクがあることは、サイト運用者側も広告を依頼する広告主側も知っておきたいことだと思います。
読んでおられない方は、ぜひ一度この書籍に目を通してみてはいかがでしょうか?